印刷デザインのデータの著作権(版権)は誰のもの?
カタログのみならず、ポスターやパンフレットなどのほとんどの印刷物でDTP(Desk Top Publishing)、つまりコンピューターのアプリによってデザインデータを作って、印刷を行います。
この印刷データを、印刷物の発注側が制作できるのであれば問題は発生しませんが、制作・デザインができるスタッフがいないということであれば、外部の会社などに依頼することになります。
外部の会社といっても、印刷会社であれば、組版や制作・デザインができるスタッフが所属していることが多いので、制作・デザインとともに印刷・製本もまとめて印刷会社に依頼することも多いと思います。
印刷会社にまとめて依頼するにあたって、見積もりを出してもらい、予算と合えば発注の契約をして依頼ということになります。しかし、この見積もりや契約には、注意点があります。
多くの印刷会社では、制作・デザインに関しては見積書の内訳に「編集費」「デザイン費」などと書かれて積算をされています。(内訳の詳細は書かずに一式と書く印刷会社もあります)
この「編集費」「デザイン費」はあくまで、編集やデザインをするための費用です。当然のように思われるかもしれませんが、実はここに勘違いしやすいポイントがあるのです。
発注側が依頼しているものは「印刷物」
印刷物を発注する側が発注しているものは、あくまで「印刷物」であり、その途中過程の中間成果物ではありません。
わかりやすい例で言えば、印刷物は大きな紙に面付けして印刷し、断裁・製本を行いますが、断裁時に発生する紙の切れ端を「ご依頼があったものの金額に含まれているので」と印刷物と一緒に納品されたり、印刷時に使用した刷版のアルミプレートを「ご依頼があったものの金額に含まれているので」と、一緒に納品されたりしても困りますよね。
印刷物を発注する側は完成した「印刷物」だけを期待して依頼するので、その途中過程の中間成果物が一緒に納品されても困るわけです。
そう考えると、印刷物以外の納品は契約外の話になるはずなのですが、印刷データの話になると、ちょっと認識が異なる方も多いです。
「チラシに流用したいので、印刷データを渡してください」
「ウェブで使いたいので、印刷データを渡してください」
印刷物以外で使いたいので印刷データを渡してほしいという要望は、よくある話です。
しかし、基本的には先程の話のように中間成果物である印刷データ(DTPデータ)を渡す契約にはなっていないことが多いため、データを渡してもらえないというパターンがほとんどです。
編集費やデザイン費で費用が入っているのに、印刷データは渡してもらえないのは不思議に思えませんか?
法律相談ポータルサイトの「弁護士ドットコム」でもこうしたパターンの相談が掲載されています。
デザイナーにデザインを依頼して、これまでにパンフレットと化粧箱を作成しました。見積書にも請求書にも、明細はデータ制作料となっています。ところが、作成したデータの著作権はデザインした自分にあるという主張をされ、そのデータを渡してくれません。
依頼した作成データの著作権について(弁護士ドットコム)
デザインを依頼して、そのデザインを自由に使えない件に関しては、企業・起業家・ビジネスパーソンのための企業情報サイトのイノベーションズアイに掲載されている著作権に関するコラムでも同じような事例が掲載されています。
A社長はBさんの会社に外注費を支払ってデザインの仕事を依頼しています。それなのに納品してもらったデザインがA社長の自由にならないとすれば、「そんなおかしな話はない!」と思う人は多いのではないでしょうか。
外注で制作したデザインの著作権は会社のもの?外注先のもの?~著作権の帰属にまつわる話(イノベーションズアイ)
いずれのパターンも著作権及び著作者人格権が関わる問題で、この譲渡が契約に入っていない場合はデータを渡してもらえないのも仕方がないということになります。
弁護士ドットコムで回答している大熊弁護士の見解は次の通りで、特段の契約をしない限りデータの譲渡をしてもらえないとのことです。
デザインなどの著作物を委託契約した場合は、著作者であるデザイナー等に著作権及び著作者人格権が発生しますので、著作権の譲渡契約等をデザイナーとかわしていない限り、著作者であるデザイナーは著作権法26条の2の譲渡権に基づき自分の著作物の流通のコントロールができますので、データは譲渡してもらえないという事になります。依頼した作成データの著作権について(弁護士ドットコム)
発注側は販売促進の活動をしたい
発注側は、なぜ印刷物を作るのでしょうか。
それは印刷物を通じて、外部に情報発信を行い、お客様とコミュニケーションをし、商品やサービスを購入してもらい、利益を得るためです。
あくまで情報流通やコミュニケーションのツールのひとつとして印刷物を選択しているのであって、ツールとしてはメール・ウェブなど、他のメディアなども利用することも多いでしょう。
そのメディアを活用するために、印刷物のデータを自由に活用できないと使い勝手が悪く感じてしまいます。
同じ印刷物というメディアでも、カタログ印刷で使った印刷データを他のパンフレットなどでも自由に活用できない状況となるのであれば、さらに使い勝手が悪く感じてしまうことでしょう。
こうした問題を解決するためには、やはり印刷デザインのデータを作成してもらう時に、版権(著作権など)を印刷物とともに譲渡してもらう契約をきちんと結ぶことが重要です。
もし、現在使用している印刷物の版権の所在がわからないようであれば、確認することをおすすめします。
印刷物の発注担当者は、デザイン・制作を含む印刷の見積もりを依頼する場合には、版権の譲渡が可能かどうかの確認と、版権の譲渡が可能であれば、その場合の見積もりも依頼しておくと良いでしょう。
版権を印刷物の発注側が得ることにより、他のメディアでの流用ができるようになり、情報の流通をスムーズに、そして効率が良くなります。今まで以上に販売促進の活動がしやすくなることでしょう。販売促進に関わる担当者の共通の目的は利益を上げることです。他のメディアの担当者がいるのであれば、印刷物の発注担当者だけで考えず、販売促進に関わる担当者を交えて版権の運用について考えていくことも効率的に利益を上げるために重要なことです。
版権についてあらためて考えてみてはいかがでしょうか。
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