このページではIllustratorでのオーバープリントと透明効果の乗算との違いについて説明しています。
色を重ねるという意味ではオーバープリントと透明効果の乗算は同じイメージがありますが、オーバープリントと透明効果の乗算は同じ結果にはならないので、設定にはご注意ください。
はじめに
乗算とは何なのでしょうか。Adobe Illustratorのヘルプには以下のように書いてあります。
乗算 ベースカラーにブレンドカラーを掛け合わせます。最終カラーは、常に暗いカラーになります。カラーにブラックを掛け合わせると常にブラックになります。カラーにホワイトを掛け合わせても、カラーは変化しません。複数のマーカーを使用して描画したような効果が得られます。
描画モードについて|Illustrator で透明と描画モードを使用してアートワークを編集する方法(Adobe)
つまり、乗算を使用した場合は「カラーが明るくなることはない」ということを覚えておいてください。
実例
以下のようなデータを作成します。画面はIllustrator CS3です。
①のセンターのグレーの四角はK30%のオブジェクトです。このオブジェクトはノックアウト(ヌキ・オーバープリントオフ)になっています。
②のセンターのグレーの四角はK30%のオブジェクトです。このオブジェクトはオーバープリント(ノセ)になっています。
③のセンターのグレーの四角はK30%のオブジェクトです。このオブジェクトは透明効果で「乗算」になっています。
Illustrator CS3からPDF/X-1aを書き出します。書き出したPDFをAcrobat 8 Professionalで開いてみましょう。
ここではセンターのグレーの四角のオブジェクトと重なったC50%の部分A・A'と、K50%の部分B・B'に注目します。
メニューの「アドバンスト」→「印刷工程」→「出力プレビュー」(↓のアイコン)を選択して、色の情報を見てみましょう。
Aの部分はC50%の上にK30%のオブジェクトをオーバープリントする設定なので、C50%K30%のオブジェクトになります。
A'の部分はC50%の上にK30%のオブジェクトを乗算する設定なので、Kは(1-((100-30)÷100)×((100-0)÷100))×100(計算式は後述)。この結果、C50%K30%のオブジェクトになります。
Bの部分はK50%の上にK30%のオブジェクトをオーバープリントする設定なので、上のオブジェクトのプロセスカラーの%が有効になります。この結果、K30%のオブジェクトになります。(これはPostScriptの仕様です)
B'の部分はK50%の上にK30%のオブジェクトを乗算する設定なので、(1-((100-30)÷100)×((100-50)÷100))×100(計算式は後述)。この結果、K65%のオブジェクトになります。
以上のように、オーバープリントと透明効果の乗算は似ているのですが、結果が大きく異なることがあります。
データ作成の際には十分注意してください。
なお、参考として上記で使用したPDFのリンクを以下に掲載します。
補足情報
なお、乗算の際の計算式は「Photoshop Manual - [ 乗算 ] とは - by StudioGraphics」のページによると、
結果の値 = (基本色×合成色)÷255
※基本色とは「下地の色のRGBの値(8bit値)」と考えてもらえば良いようです。
とのことです。
ただし、この式は単純に適用すると、CMYKの色空間ではおかしな結果が出てしまいます。
これは乗算の計算式として提示されているものが「加色法」と呼ばれるRGBのカラー空間を元に作られているためです。
CMYKの場合は「減色法」ですので、基本色・合成色の部分の計算方式が異なり、100%分から対象オブジェクト分の網パーセントを引いたものを代入しなければなりません。(結果の値も同じ)
また、上記の式で255で割っているのはRGBの値が8bitのRGBカラーのためで、最初から%になっている網パーセントでは255で割る必要がありません。
つまり基本の式は「乗算」の名の通り、
結果の値 = 基本色×合成色
ということになります。(結果の値は0~1になります)
以上の点からCMYKの場合は以下のような計算式になります。
結果の値(網パーセント) = (1-((100-基本色の網パーセントの値)÷100)×((100-合成色の網パーセントの値)÷100))×100
関連情報・参考資料
- Photoshop Manual - [ 乗算 ] とは - by StudioGraphics
- オーバープリント(DTP・印刷用語集)
- オーバープリントと乗算を同時に設定したらどうなるのか?(DTPサポート情報)