複数回に分けて弊社が発行している書籍『非常識が企業を進化させる - 全体最適は社会も変える -』の内容をメールマガジンでお届けしております。
経営者・営業担当向けの内容になっております。
書籍『非常識が企業を進化させる - 全体最適は社会も変える -』については以下のページをご覧下さい。
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2011年10月13日にハイデル・フォーラム21プリネクト研究会主催により、新潟県五泉市に本社を構える株式会社吉田印刷所にて「未来環境型IT工場見学会」が開催されました。
この原稿は、当日行われた吉田和久(吉田印刷所代表取締役社長)と本田雄也(ハイデルベルグ・ジャパンプロダクションマネジメント部部長)によるパネルディスカッションを文章化したものです。話の流れを分かりやすくするため、順序の入れ替えや言い換えなどの修正を行っていることを予めご了承ください。
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(前回の話を読みたい場合はこちらから→ http://bit.ly/KNT7fM )
●お客様の望みなら可能にするのが「あたりまえ」
◆本田 ──────────
ITをうまく使うというお話を、もう少し深掘りしていきたいと思います。
以前、私は吉田印刷所様の改善会議に参加させていただいたことがありました。
当然、社長も社員の皆さんも出席されていました。
社員の方が色々な無駄の削減提案をされている中で、ある営業系社員の方が会社の営業展開に対して意見をされたんですね。
ずばり吉田社長に意見をされたんです。
それに対して社長も、間違えていたことは間違えていたと真摯に受け止めて、「次の展開はこうしたいが、どう思う?」とおっしゃったんです。
経営者と社員のコミュニケーションの中で、皆さん本気で切磋琢磨されていました。
私はその場に立ち合って非常にびっくりしたんです。
これが吉田印刷所様の理念と言いますか、100年余りの歴史の中に脈々と受け継がれ、社員の皆さんに浸透しているものなのかと思いました。
4つ目のEというお話がありましたが、こういった社内環境が根本として一番大事なのだと実感しています。
◆吉田 ──────────
当社のスタッフは誰一人として特別なことをやっているという意識を、持ち合わせていないと思います。
日々の仕事の中で「他者には真似の出来ない自社にとってのあたりまえ」が、それこそ毎日あたりまえのように進行しています。
しかし、もっとスピードを上げて進化する会社にならねばならないと思っています。
それには、求めに応じられないことを全て非常識と一蹴するのではなく、それがお客様の望みならば、非常識を可能とする技術力を身につけるべきだと考えています。
これからの差別化は設備依存型ではありません。
当社も今回の工場を新設するにあたってハイデルベルグさんのXL105、8色機を導入致しましたが、この設備力を誇るのではなく、これで何をしようとしているかが重要だと考えています。
これまで印刷業界が非常識と言って避けていた案件を新規需要と受け止め、積極的に開拓していくことが未来を拓くことになるのではないでしょうか。
例えば、「印刷物の文字を3色掛け合わせで印刷することは、印刷業界の常識でしょうか?非常識でしょうか?」と聞かれた時に、業界の多くの方は「非常識」とお答えになると思います。
しかし、当社では「3色で印刷するとこんなふうになります」と印刷サンプルをお見せ致します。
皆さんは「決まった色ならば特色で」というお話をされますが、何故特色をお勧めになるのか私には理解できません。
その理由は、特色を使えばどんな場合でも同じ色が出るというわけではないからです。掛け合わせ文字の色をプロセスカラーで管理できるのであれば、その方が良いのではないかと思っています。
これが可能となれば、私たちはもっと違う領域や次元で印刷を捉えることが出来ると考えています。
そのような思いで掛け合わせ文字の印刷にチャレンジしており、そのためには、当社の基礎技術である乾燥促進技術を更に高め、湿し水を徹底的に絞らなくてはなりません。
また、この乾燥促進技術を用いた更なるチャレンジとして、薄紙の印刷にも取り組んでいます。
ハイデルベルグさんのスペックでは0.03ミリメートルが印刷可能な最も薄い紙とされていますが、こういった薄紙への印刷です。
当社ではこれを「ライトプリント」と呼んでいます。
今まで使用していた紙をこのような薄紙に変更することで、パルプの使用量を大幅に削減し輸送する際の重量も軽くなります。「輸送コストやCO2の排出量でも、経済、環境の両面でこの仕組みは有効に機能するのではないでしょうか」、こんな提案を日々、機会があるごとに行っています。
本日は運良くこの提案結果の印刷を行っていますので、皆さんに後程お見せすることが出来るかと思います。これは0.04ミリメートルの紙の厚さです。
完成した冊子の厚みはライトプリント導入前の4割減になるという仕事です。
◆本田 ──────────
今のお話の社長のその視点ですね。技術の問題もさることながら、着目された視点というのが、正に先程おっしゃった吉田印刷所様が考える全体最適の「全体」の範囲を表していると思います。
今お話しされたのは、あくまで発注者様への「こうされた方がより良いのではないですか」という提案が含まれているということですね。
自社がコストダウンするためだけではなくて、お客様の視点に立って出てきた発想ということで、先程のお話の全体最適の範囲というのが、今ここで明確に裏付けられたのではないかと思います。
◆吉田 ──────────
しかし、ここではこれまでの価格との比較方法が問題になります。
例えば、今まで使っていた印刷物の単価が1部100円としましょう。
その100円という単価で作られた印刷物が、2割から3割、一度も使うことなく廃棄されたら、100円が130円になり、140円となり、更に管理料、保管料、廃棄する費用もかかるとなると、150円あるいは160円になるかもしれません。
当社が「ライトプリント」をご提案しますと、ほとんどのお客様が「今までは100円だけれど、吉田さんの仕組みを導入するといくらになるんですか」と尋ねられます。
金額を単純比較しようとされているわけですが、これまでの単価が本当に100円だったのかが明らかになりませんと同じ土俵には上がれませんし、正当なコスト評価を得ることが出来ません。
ですから、私どもはこの無駄の部分を洗い出します。
提案内容によっては、これまで掛かっていた在庫費用など、様々な間接コストが圧縮される、あるいはコストそのものがなくなる場合もあるからです。
本来の単価や普段は表に出てこない経費がいくらだったのかを解明し、それらを加味したトータルコストで比較していただきたいとお願いしています。
この理解が得られませんと、先程申し上げましたように同じ土俵での話にはなりません。
そもそも捨てる印刷物があること自体が損失そのものであり、環境負荷になるわけですから、今お話申し上げたことは、経営と環境を真剣に考えている企業であれば十分にご理解いただけることだと思っています。
今の印刷業界では、一度も使われることなく捨てられる印刷物でも、そこに売上と利益が含まれているならば、見て見ぬふりが常識であり、あたりまえとなっています。
しかし、これでは本来あるべき姿の全体最適には至りません。
これからは勇気を持って、「捨てる印刷物をなくすこんな仕組みがありますが、いかがでしょうか?」と、ご提案することが肝要であり、それが正義なのではないでしょうか。
◆本田 ──────────
これは発注者様のエコロジーおよびエコノミーもお考えになっている内容ではないでしょうか。正に、お客様の視点に立った提案だと私は思いました。
(次回に続く)
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