解説
無線綴じ製本の糊の部分に、PUR系ホットメルト接着剤を使用した製本のことです。
※PUR:ポリウレタンリアクティブ(Poly Urethane Reactive)
PUR製本のメリット
一般的な製本のりである「EVA系ホットメルト接着剤」の無線綴じ製本と比べて以下のメリットがあります。
- ページの開きが良い
- 開きの耐久性が高い
- 熱に強い(高温に強い)
- 環境面でもリサイクル性が高い
▲このようなイメージで開くことができる製本です。
PUR製本に適した印刷物
用途 | 理由 |
---|---|
写真集・レシピ本・シニア向けの冊子 | 開きやすいため |
長期間使用される冊子・カタログ(操作マニュアル) | 開きの耐久性が強いため |
夏のイベントや高温になる場所・倉庫で使用・保管する冊子・カタログ | 熱に強いため |
環境配慮を意識した冊子・カタログ(CSRレポート・環境報告書など) | リサイクル性が高いため |
環境面のリサイクル性が高いのは以下の糊の特性によるものです。
特に、一度硬化すると軟化しないという性質から、古紙リサイクルにおける溶解工程での除去が容易です。
グリーン購入ネットワークのオフセット印刷グリーン規準、日本印刷産業連合会のグリーンプリンティングオフセット印刷規準の両方において、環境配慮型製本のりとして指定されています。
製本のひきだしより
「製本のひきだし」のサイトの解説によれば、糊が冷却されるだけでなく、空気中の水分と反応する必要があるので、糊の硬化(糊が固まる)までの時間が一般的な無線綴じより時間が掛かることが掲載されています。
空気中の水分と反応して硬化するPURという接着剤を使った製本。完全に硬化するまで通常よりも時間がかかるが、一度固まると非常に強度が高いため塗布量を少なくでき、開きをよくすることが可能。
PUR製本 - 製本傑作集(製本のひきだし)
JAGATのサイトより
JAGAT(公益社団法人日本印刷技術協会)のサイトの「ナンデモQ&A:後加工 無線綴じ工程でのラフニングとは」のページに、無線綴じに関する情報が掲載されています。
こちらでは、通常の無線綴じで背を削る工程に着目し、海外と日本の違いは、用紙の繊維の長さが違うということと、用紙が混在する製本が多いということを挙げ、接着強度を保つためには深い削り(ノッチング・ガリ入れ)が必要だとしています。PUR製本では、ノッチングが不要なため、PUR製本を採用するシーンが増えてきているようです。
- 無線綴じ工程でのラフニングとは(JAGAT)
これは使用される用紙の紙質が大きく関係しているようです。日本で流通している用紙は欧米に比べて短繊維のものが多く、ラフニング効果があまり期待できないとされているためです (繊維が短すぎるために、ラフニングによって繊維の絡み合いがほどけてばらばらになってしまう) 。それに加えて日本の雑誌のように、上質紙、中質紙、コート紙、グラビア紙など多種の用紙を混用する製本形態では、ラフニングだけで十分な接着強度を確保することは出来ず、ノッチング(ガリ入れ)は不可欠の工程となります。
無線綴じ工程でのラフニングとは(JAGAT)
木戸製本所(喜怒哀楽書房)より
木戸製本所(喜怒哀楽書房)のサイトのPUR製本のメリットについて掲載されています。
- 製品情報 - PUR(喜怒哀楽書房)
耐熱性の面では、通常の無線綴じでは45℃前後が限界のことで、夏の車のダッシュボードや車内などの高温になる環境では綴じが壊れてしまう可能性が指摘されています。また、明石工業高等専門学校研究紀要 第50号(平成19年12月)に掲載されている「保水性舗装の路面温度上昇抑制効果」(石丸和宏・政井一仁 著)によれば、夏のアスファルトの表面温度は約60℃にもなり、地表面近くに印刷物を保管する場合は綴じが壊れてしまうことが考えられます。
2. 耐熱性がある。
今までの EVA 系ホットメルトの耐熱温度(接着力を保持できなくなる限界点)が約 45 ℃前後です。したがって、外気の気温が夏場には EVA 系の接着剤の限界点に近い 40 ℃近くなる。これに対して PUR は 120 ℃近い温度まで耐性があります。
製品情報 - PUR(喜怒哀楽書房)
デザインをする上でも、ノド側(綴じ側)にベタがある印刷物は通常の無線綴じは接着力が弱くなる場合があります。見開きの写真などでもこの現象は起きる可能性があります。これはインキの成分と糊との相性の問題で接着力が低下するためですが、PUR製本ではインキとの相性も改善されるとのことです。
4. PUR は耐インキ溶剤性をもつ。
通常の EVA 系ホットメルトではインキ溶剤と糊のマッチングが悪く接着力を失い本がバラバラになるというトラブルが発生することがあります。この点、 PUR は用紙に含まれる水分とPURが化学反応を起こして皮膜が強固になるため薬剤に対する強さがあります。
製品情報 - PUR(喜怒哀楽書房)
補足:夏のアスファルトの温度について
解説文中の明石工業高等専門学校研究紀要 第50号(平成19年12月)「保水性舗装の路面温度上昇抑制効果」(石丸和宏・政井一仁 著)では、炎天下時の温度変化を以下のように計測しています。こちらによれば午後2時付近でアスファルトが60℃近くの温度になっていることが確認できます。
また、朝日新聞の記事によれば、朝日土木の山中正善さんと三重大大学院生物資源学研究科の石黒覚教授が2009年に炎天下の路面温度を調査したところ、アスファルトの舗装は表面温度が60℃まで上昇したことが書かれています。
昨夏、炎天下で路面温度を比較したところ、午後2時の時点で従来の舗装は60度まで上昇した
夏の道路を冷やせ カキ殻入りアスファルトで10度低く - 環境(asahi.com(朝日新聞社))
画像は「コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.1,2012」に掲載されている論文「充填モルタルによるアスファルト舗装路面の温度制御」(石黒 覚・山中 正善 著)によるもの。左の写真で黒い部分がアスファルトの舗装部分。サーモグラフィーで見ると、60℃近くの温度になっていることが確認できます。
関連情報・参考資料
- PUR系ホットメルト接着剤(DTP・印刷用語集)
- PUR製本とは(株式会社木戸製本所)
- 明石工業高等専門学校研究紀要 第50号(平成19年12月)「保水性舗装の路面温度上昇抑制効果」(石丸和宏・政井一仁)(明石工業高等専門学校)
- コンクリート工学年次論文集 Vol.34(日本コンクリート工学会)